地方の生存戦略「地方消滅 創生戦略篇」
3月 30, 2022
岩手県知事や総務大臣を務めた増田さん、株式会社経営共創基盤会長の冨山さんによる共著。政治と経営のプロが地方の消滅危機の実態とチャンスについて語っています。
政治家の本は過去にいくつも読んできましたが、ふわっとした内容が多くなりがちです。しかしこの本は、富山さんという論客のおかげで、理論がしっかりとしていると感じました。GDPと雇用の7割を占めるローカル経済に、日本経済復活の可能性を見出している冨山さんの理論は筋が通っています。
個人的には、富山さんのコメントが自社と照らし合わせながら読める部分も多く、特に地方発のイノベーションをどう生み出していくかという最終章が良かったです。一点欲をいえば、世界からの視点があると良いと思いました。インバウンドについて記載はありましたが、世界のローカルとの比較や事例についての言及があると満足度が高まった気がします。
地域活性化に興味のある方におすすめできる本です。
以下、印象に残った内容とコメント。
- 地方の中核都市レベルに住む夫婦が共働きで500万円稼げる仕事をいかにつくるかが大切。新しいミドルクラスを作る。100-200万給与の仕事では駄目だが、観光業はそうなりがちなのが問題。ニセコはそうなっている。軽井沢も外資が稼いで外に持っていく。沖縄も同様。なんのための観光業なのか。
➡ 収入目線、考え方ともに同意。色々な人たちと話をしても、飛騨地域のミドルクラスは崩壊しているのは明らか。給料は長年上がっていない職場が多い。銀行や市役所など一部の仕事を除いて厳しい。都会にでるのはしょうがいないと感じる。経営者が収益性にこだわり、従業員の給料を上げていく覚悟を持つ必要がある。自社のレベルはまだまだだが、将来良い会社になるべく給料にもこだわっていきたい。そのためには経営者も従業員も成長する必要がある。
- 観光ビジネスを学ばせろ。コーネル卒並み人材を育てる教育を。
➡ これはよく感じていたこと。2018年、2019年と高山に観光庁長官が来られたときにプレゼンする機会をもらった際、観光経営人材にプレーヤーとして活躍してもらう制度を作るべきとお伝えした。一橋観光MBAや京大観光MBAが設立されたけれど、どうしてもグローバルチェーンや観光プラットフォーム側に就職してしまうため、プレーヤーがいない。次のステップとしては、観光MBA人材が観光地で長期プロジェクトをする制度があるといいなと思う。現場の理解も深まり、地域に愛着を持ち、プレーヤーとして起業する卒業生が出てくるのではないかと思う。HIDAIIYOでプロジェクトを実施したいMBA関係者の方がいれば、ぜひ声掛けしてほしい。
- 地方にこそUberを解禁するべき
➡ 激しく同意。日本交通の政治力に負けてしまったのが残念。インバウンド観光の現場にいるとUBERがあることで解決される問題が山ほどあることがわかる。言語や決済などもそうだし、周辺地域や観光エリアで回遊性を持たせることが可能になる。滞在中の満足度は確実に上がる。地域の人々が楽しみながら収入を稼ぐ手段を得ることも可能になる。グローバルエリートから資金を地域に流し、循環させることにつながる。
- 地方創生の本質は、結局、地域それぞれで持っている比較優位にどこまで集中できるかということです。一方、東京は高度外国人人材が家族で暮らしやすい町へ。
➡ おそらくアメリカの大都市と地方都市をイメージして語っているのではないかと感じる。NY・シリコンバレーは金融・ソフトウェアで高度人材を、LAはエンタメ・ファッション、デンバーはクリーンテック、ポートランドは自然と文化あるライフスタイルなど。高山市、下呂市、白川村、飛騨市と個別にみるのではなく、飛騨地域全体として日本国内、アジア、グローバルでの比較優位とは突き詰めるとなんだろうか。