リノベーションまちづくり「熱海の軌跡」

3月 31, 2022

衰退していた熱海をビジネスの力で再生に取り組んでいる市来さんのストーリー本。熱海生まれの著者はコンサルティング会社で働いていましたが、コンサルティングで人々を幸せにできているのかと疑問に持ち、大前研一さんが主宰するビジネススクールへ。Uターンして熱海の衰退をビジネスを通じて解決する道を探ります。

地元の衰退をなんとかしたい、ビジネスの力で再生したいといった思いや、コワーキングスペース運営、創業支援などHIDAIIYOのストーリーやビジネスと似ている部分も多く、共感しながら読みました。

地域再生系の本は実力以上に大きく見せようとするケースがよくあるのですが、市来さんの本は自然体。成功事例だけでなく、補助金に頼ったことによるイベントの失敗や、カフェの失敗についてもちゃんと書いていて好感が持てます。これはなぜかというと、おそらく、描いているビジョンが大きいからというのと、地域に根付いているからだと思います。ビジョンが小さいと自己中心的になってしまい、地域に根付いていない人物では周りが見えないので、自分ブランドのPRが先行してしまって知名度はあっても実態は、、、というケースがあったりします。

リノベーションによるまちづくりで空き家を減少させ、商店街の空き家も10店舗あったのが残り2店舗に。宿泊業にも進出。行政の役割を意識しながら、民間主導にこだわった街づくりで、大きな成果を上げているのはすごいと思いました。

一方で、観光のV字回復という意味では、万単位の観光客を呼びこむのは商店街だけでは無理なので、観光客数の回復には、おそらく民間のホテルの進出による大規模リノベーションと自治体等のプロモーション効果が大きかったのではと思います。その上で、滞在中の満足度を高める街の魅力づくりいついて、市来さんが短期間で成果をだしたことが受け入れの土壌として効果を発揮している、ということではないかと感じました。本書の内容は熱海全体というよりは、熱海の一商店街を再生して、その商店街をテコに魅力的な町づくりに大きく貢献しているというストーリだと思います。

また、これは編集者がどういうタイトルで売るか?という観点や、熱海復活を印象付けるためのデスティネーションマーケティング的要素もあるのだと思いますが、「奇跡的な再生」とはどういう状態をいうのかよくわかりませんでした。V字回復というのも基準年が震災のあった2011年なのは、ちょっと?ですし、長期トレンドで見ると程度の差はあれ、同じような観光地は実は多いかも?と思いました(言いっぱなしで調べてなくてすみません汗)。

「熱海の奇跡」というタイトルに加えて、「衰退した観光地の代名詞となっていた熱海はなぜ再生できたのか」というフレーズが続くこの本の売り方は、少しミスリーディングな可能性があると感じました。ある意味では、戦略的にロジック付けした地域マーケティングといえるかもしれません。

上記の通り少し気になる点はありましたが、本書の事例は行政と連携するべきところは連携し、民間がリードするべきところはリードするというバランス感覚に優れたものだと思います。市来さんのようなプレーヤーが各地域に増えることが地域創生につながると確信しました。熱海のメディアへの取り上げられ方が、クリエイティブ系の移住、リノベーションまちづくりなど、多様になっていることを見ても、価値が発揮されていると思います。これからの時代の地方起業の一つのモデルとして多くの方が読むに値する本だと思いました。

以下、印象に残った内容とコメント。

  • 町にいる人たちが楽しそうにしている姿こそが町のディスプレイ
    ➡ 観光客の方に、「飛騨と高山は地元民が楽しそうにしているところを見ることができない」と言われたことがあありちょっとショックだったことがあります。「日本は隠す文化だから扉を開けないと見えない、地元民が集まる夜の居酒屋に行けばいっぱい楽しそうにしてるよ!」と伝えましたが、観光地の中心部なのにこの数十年、自動車に適したまちづくりをしてしまったため、中心部でローカルが歩いていないし、働いていないということが根本原因としてあるのかなと感じています。私たちが町中にコワーキングスペースなどを建築しているのはその逆回転を回すためです。飛騨の方向性としては中長期的にWalkable Cityに戻すことだと思っています。

  • クリエイティブな30代が集めるをビジョンに。クリエイティブとは仕事を作っていく人と言う意味。
    ➡ コロナ禍でデジタル化が進みさらに現実的になっていると思います。首都圏へのアクセスの良さからも熱海は良いポジションに。2拠点居住の盛り上がりが進んで、さらなる発展につながってそうです。いまの熱海を見に行きたいです。飛騨地域はとにかくアクセスが良くないため、ハードルが高いですが、そこを乗り越えるだけの魅力を町につくっていきたいと思います。

  • 熱海が上手くいったのは世代交代が各種団体で進んだこと。
    ➡ 飛騨地域で全くできていないのがこの世代交代。陣取っている方々以外は世代交代してほしいと思っているけれど、順番待ちカルチャーがあるので声を上げないという感じです。本当に難しい問題です。

  • リノベーションスクールで町の不動産オーナーがリスクをとって動き出した。
    ➡ 飛騨でも必要な動きだと思いました。意識高い系不動産会社が必要ではないでしょうか。

  • 2030年熱海は独立する。自立した存在として成功させたい。
    ➡ もう少し詳しく話を聞いてみたい。