江戸時代型モデルで気楽に暮らす? 2025年日本経済再生戦略

江戸時代型モデルで気楽に暮らす? 2025年日本経済再生戦略

6月 21, 2023

著者の冨山さんと成毛さんはビジネス界ではとても有名です。冨山さんは経営共創基盤(IGPI) IGPIグループ会長、成毛さんは元日本マイクロソフト代表取締役社長です。本書では日本がなぜ貧しくなったのか、それに対する処方箋について前半で説明されており、後半ではこれからの時代の生き方やマインドセットについて書かれています。

本書では、明治以降に確立された日本の成功モデルとそれに紐づいた制度が機能不全を起こしており、昭和との決別が必要であることが強調されています。サラリーマンは、究極の自己責任社会がやってくる構造的衰退国家で働きながら、人生100年時代を充実して過ごす必要があると指摘。今後国や社会には期待することはできなくなるので、個人が自分の身を守ること、楽しく自分勝手に生きることで、幸福度の高い社会へ移行することが提唱されています。

地方部の記述に関しては、1泊1人10万円のラグジュアリー価格帯の宿が地方部にほとんど存在しないので、そこにチャンスがあるとの記載もありました。飛騨地域もそうですが、高価格帯の宿が存在していません。中間から低価格帯がほとんどを占めており、競争に巻き込まれてしまっています。IORI STAYは数年かけてさらに高価格帯へとシフトしていく計画なので、方向性は正しいと感じました。

経営者だけでなく、あらゆる規模の会社で働く方々にも参考になると思います。また、行政の関係者の方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。

以下、印象に残った内容とコメント。

  • 有事は起こらないという前提ではなく、目前に迫っているという前提で考えなくてはいけない時代だ。有事に対処することも、想定して戦略を立てることもできないのがいまのエリートだ。自分で想像力を働かせ、合理的な準備を始めよう。それだけで未来は変えられる。
    ➡ コロナ禍3年を乗り切ったので、正直次の危機の想定することに心がついていかないがけれど、10年以内に新たな危機がやってくると想定している。そのためには、強固なブランドを築きあげることと、事業ポートフォリオの多様化を着々と進めたい。固定費の2年分程度を手許現金として保有できるように準備していきたい。これからはどの会社で働いているかが安全保障になる時代だと思う。
  • 自己責任の時代に備えよ。社会保障は破綻する。年金はインフレで苦しくなる。昭和的価値観で凝り固まっている政治にも行政にも期待してはいけない。お上が世の中の変化に先んじて大展開することはない。政府の変化は、いつだって世の中の後追いである。それでいいのだ。もともとクリエイティブではないのだ。
    ➡ 地方部にいると昭和どころか江戸を引きずっていると感じることがあるから面白い。自分の強みを活かして自由に活動するプレーヤーがいない。プレーヤーがいないからと、行政が補助金を出して第三セクター的な事業をするが、クリエィティブでなくビジネスセンスもないので実質官製内需による生活保障になっているケースが多々ある。行政は、クリエィティブな個人が活躍するためのサポートを拡充し、プレーヤーを生み出すことにもっと試行錯誤するべきだと思う。
  • ホワイトカラーの仕事はなくなる。エッセンシャルワーカーの仕事は増える、人と触れて感動を与える仕事だからである。エッセンシャルワーカーの給料を上げる。新たな中産階級にする。
    ➡ 観光業もエッセンシャルワーカー枠に入ってくる。観光業を成り立たせるためにはその地位を上げていく必要がある。大人手不足時代を迎えるから。そのために経営者は事業を進化させ続けて、給料を上げ続けなければならない。大変な時代になるけれど、経営者次第で楽しい時代にできるとも言える。自動化して人を減らす格安ホテルと、魅力的な人材を揃えるラグジュアリーホテルに分かれていく流れになりそう。

  • イタリア、スペイン型、江戸時代型モデルで、裕福ではないが幸福度を求めて生きる。気楽に暮らす。幸福度の高い社会は住みやすいので、世界中から人々を惹きつける。
    ➡ 既に日本の地方部は、ある意味ではこの状態になっていると感じる。労働時間が長く競争しているのは都会の大企業が中心であって、大半の地方中小企業で働く人々は、仕事は仕事で割り切り、気楽に暮らしている。そして、裕福でもない。ただ、「好きに生きる」という点はまったくできていないかもしれない。高齢化したコミュニティと古い価値感が根強く、周りを気にして生きている。好き勝手に生きるコストが高すぎるのかもしれない。江戸時代型モデルで人々を呼び込めるのは、人との距離が程よくある福岡とか札幌の規模なのかも。