心とともに届ける「空き家幸福論」
3月 27, 2022
空き家という社会問題を解決するビジネスを立ち上げた藤木さんの本です。藤木さんはデベロッパー出身で不動産ファンドなどで働いた後、不動産活用コンサルティング会社、エアリーフローを設立されました。2015年に空き家仲介サイト「家いちば」を立ち上げて、現在に至ります。本書では著者の人生を振り返りながら、現在進行形で成長し続けている「家いちば」事業について書かれています。
藤木さんは空き家を問題として捉えるのではなく、そこに「心」や「ストーリー」という目に見えない付加価値を加えることで流通するようつなげ、社会問題を解決しています。HIDAIIYOが手掛けてきた空き家を再生した貸し切り宿ブランド「IORI STAY」とアプローチが似ているので、共感しながら楽しく読めました。
「家いちば」のビジネスモデルがユニークな点は、買い手と売り手が直接交渉することです。最後の契約には宅建士が関与し安全を担保していますが、買い手が自ら疑問点を調べながら案件を進めるので、自主性が生まれるのが特徴。売り手であるオーナーも、自身の想いを本人の言葉で掲載するため、ストーリーが生まれ、感情のの交換が生まれているのも大きなポイントのようです。
不動産を直接交渉するには知識や時間も必要なので、ニッチなマーケットであり続ける気はしますが、不動産に対する人々の考え方を、大きく変える可能性を秘めたサービスだと感じました。藤木さんのビジネススタイルはとても堅実で、かつ、副業仲間などを集めてリモートワークベースで仕事を進めるなど先進的でもあります。一方、堅実なスタイルの裏返しとして、大きな投資はまだ実施していないように見受けられました。
コロナの後押しもあり、本事業の成長は加速しているようなので、今後は日本全体の不動産に関する考え方を変えるようなPR施策を開始されることを期待したいと思います。地方部で活動する人々が増えて、より分散型の社会へとつながると思います。
本書は空き家をビジネスチャンスとして考えている人や、地方自治体の職員にとって、とても有益だと思います。
以下、印象に残った内容とコメント。
●買う理由も売る理由も、本当に様々。簡単に決めつけなくても良い。都会の人が数十万〜200万円程度で買うケースが多い。
➡ これは本当にそう。人間は複雑で多様なので、働く理由が様々なように不動産の売買も様々。
●どんなにボロい家でも問い合わせは10件はくる。
➡ へー!興味深い!
●家を一生に一度の買い物にしなければマーケットは広がる。月に一回行くか程度で買う人も多い。こういう物件が増えると人の動きが活発になり、地域にお金が流れるようになり、シナジーが生まれる。
➡ 飛騨地域の古民家・空き家を再生できるチャンスですね。
●日本人は生涯買い替え回数が低い。イギリス6.2回、米国人4.2回、フランス2.3回、日本0.2回。日本は新築イコール終の住処。そうではなくて、ライフスタイルに合わせて買い替えるのが良い。
➡ ライフスタイルの変化に合わせて買い替えるのは、日本では一般的ではないですね。特に地方部、少なくとも飛騨地方では、一軒家・新築は当たり前です。欧米文化を輸入しても、ライフスタイルや制度が追い付いていないと根付かないと思います。一方で、賃貸アパート需要が伸び続けていると聞くので、事業者がハードを用意して、ライフスタイルを提案していくことで、地域内でも変化は起こせそうな気がします。
●良く売れるのは大都市からちょっと離れた車で二時間圏で、日帰りでもふらっと行ける距離感の場所である。木曽や奥三河、岐阜、能登半島なども名古屋と東京、両方へのアクセスの良さがある。売買は日本地図の真ん中あたりに集中している。
➡ 飛騨地域は残念ながらどこからも遠いんですよね。でも名古屋、大阪はチャンスありと考えます。
●東京の優位性は変わらないと考える。LCCを使えば、福岡からよりも東京からの方が安くて早く鹿児島へ行ける。全国へのアクセスは東京が強い。分散型の流れの本質は、多拠点化だ。Amazonやネット環境があり、大手ドラッグストア、スーパーなどの進出により、生活に必要なものはどこにでも実はあるので、不便で住めないということは無くなった。
➡ 都市に人が集まり続ける構造は変わらないと個人的には感じています。少しずつ拠点化の流れは進むと思います。
●自然災害に対する対策として二拠点を持つことが安心につながる。実家の代わりの逃げ場を持ち、リスク分散をする。戦争が起きたら田舎に行くという必要性も。
➡ これは本当にそうで、デジタル社会で現実的に可能になってきています。リスクマネジメントとして、飛騨地域にサテライトオフィスを開設することはメリットばかりです。個人的には、国内、外資問わず、飛騨地域にサテライトオフィスを開設する流れをつくりたいと考えています。コワーキング・サテライトオフィスTRACEを昨年立ち上げたのはそのためです。
●空き家を買うことで経験、知識を蓄積でき、より良い住まいを選べるようになる。安く買っていれば、住んでみて合わないと思えば売れば良い。その場いきなり数千万円で改修するよりは、少しずつDIYするのも理にかなっている。しかし、DIYは時間がかかるので本気でないとダメだ。
➡ 中古の流通マーケットが育っていないので、難しいのが現状ではないでしょうか。一軒家となるとオーナーの趣味性が強くなり、流通しにくいという点で不利になります。どうしても投資資金は都心のマンションに向かってしまういます。不動産の目利き力が上がらないと気軽に売買はできないので、地方物件においてはプロの不動産アドバイザーが間に入らないとしんどいかなと思います。個人的には観光都市は狙い目だと思います。