新たな観光ビジョン「この旅館をどう立て直すか」 瀬戸内デザイン会議

新たな観光ビジョン「この旅館をどう立て直すか」 瀬戸内デザイン会議

8月 29, 2022

著名なデザイナーである原研哉さんを中心に設立された日本の「観光」という産業の未来について話し合う瀬戸内デザイン会議。「ものづくりから価値づくりへ」をスローガンに、観光業の未来について議論している本です。前半は知識人による提言。後半は厳島に実際に存在する旅館を立て直すプランを提案するケースステディという構成になっています。

前半の知識人による提言は専門家の意見だけあって独自の切り口で建築や観光を語っており、実務というよりは哲学的な考え方に触れるという意味で楽しく読めました。後半のケーススタディは、3グループに分かれて提案をするのですが、HIDAIIYOとして日々取り組んでいることなので自分事として読め、実務的な観点から楽しめました。

提案内容に関しては、旅館リニューアルによる富裕層誘致にフォーカスが当たっている内容という印象だったのですが、島の観光地としての全体戦略が語られ、その中で富裕層向け宿泊施設がどう位置付けられているのかという観点が欲しかったなと思いました。富裕層の集客は今後間違いなく力を入れるべき点ですが、将来それにかかわる人はほんの一握りです。観光客も量より質と言われていますが、ある程度量があって多様な人々が楽しめる観光地が良いと個人的には考えています。

これから観光業で働きたい人、観光で起業したい人、既にホテルやツアーを運営している人、観光政策に携わる人にはとてもおすすめできる内容でした。

以下、印象に残った内容とコメント。

  • 政府目標のインバウンド観光消費15兆円 by 2030年になれば、自動車輸出12兆円を超える。現状5兆円でも半導体4兆円より大きい。一大成長産業と言える。
    ➡ 本当にそうだよなぁと思います。これからの日本、特に地方部で魅力的な雇用を生み出すには、個人の個性を活かして楽しく仕事をするには、観光業を発展させることは必須だと考えています。グローバル資本主義の富を地方に還流させる方法としても外せないと思います。

  • 女子高生が渋谷について、これが渋谷だよねのこれ。これを理解し大事にする。それは歴史が積み重ねてきた、そんな迷路のような、その中に紛れると自分の身を隠せるという雑多な街の空気こそが、彼女たちが言っていたコレなのではないかと思っています。
    ➡ 飛騨高山のこれ、飛騨古川のこれ、白川郷のこれ、下呂温泉のこれって一体なんなんでしょうか。

  • 建築評論家のウィリアムカーティスが言った言葉が忘れられない。建築はよわい。音楽や絵画に較べて弱いメッセージしか発することができない。だけどそれは持続的で物凄く長くメッセージを発する。
    ➡ なるほどなぁと感心すると同時に、建築じゃなくて町並みだと強くなれるかもしれないと思いました。音楽や絵画と比較すればメッセージは弱くなるけれど、美しい町並みには皆が吸い寄せられてきて無意識にその場所で感性が刺激されます。建築単体ではなく町並みになることで風景になり人々の記憶に残りやすい。そこに意味を持たせることで、世界への強いメッセージを発することができるのでは?と思いました。