読書レビュー
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8月 29, 2022
新たな観光ビジョン「この旅館をどう立て直すか」 瀬戸内デザイン会議
著名なデザイナーである原研哉さんを中心に設立された日本の「観光」という産業の未来について話し合う瀬戸内デザイン会議。「ものづくりから価値づくりへ」をスローガンに、観光業の未来について議論している本です。前半は知識人による提言。後半は厳島に実際に存在する旅館を立て直すプランを提案するケースステディという構成になっています。前半の知識人による提言は専門家の意見だけあって独自の切り口で建築や観光を語っており、実務というよりは哲学的な考え方に触れるという意味で楽しく読めました。後半のケーススタディは、3グループに分かれて提案をするのですが、HIDAIIYOとして日々取り組んでいることなので自分事として読め、実務的な観点から楽しめました。提案内容に関しては、旅館リニューアルによる富裕層誘致にフォーカスが当たっている内容という印象だったのですが、島の観光地としての全体戦略が語られ、その中で富裕層向け宿泊施設がどう位置付けられているのかという観点が欲しかったなと思いました。富裕層の集客は今後間違いなく力を入れるべき点ですが、将来それにかかわる人はほんの一握りです。観光客も量より質と言われていますが、ある...
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8月 29, 2022
認知がすべて「最強知名度のつくり方 西村誠司」
いま日本で勢いのある会社といえば、エクスコムグローバル社が頭に浮かぶ方も多いと思います。いもとのWifiと聞けば、知らない方は少ないのではないでしょうか。同社の代表 西村誠司さんの初の著書です。西村さんは名古屋市立大学卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社されました。 1995年、退社してインターコミュニケーションズ(現エクスコムグローバル)を設立され、社長に就任。いもとのWifi(海外用レンタル携帯電話事業)で事業を軌道に乗せることに成功させます。しかし待ち受けていたのは新型コロナウイルスによる売上消滅。ここであきらめずにもの凄い速さで「にしたんクリニック(PCR検査事業)」を立ち上げ、業績をV字回復させました。その軌跡、代表の経営哲学が詰まった本です。この本の特徴として、マーケターではなく経営者が語るマーケティング論ということです。マーケターが語るマーケティング本は論理展開が明確で、ほぼ間違いなく市場調査やマーケティングMIX(Product, Price, Place, Promotion)の重要性が書かれています。しかし西村代表は直感型の経営者(動物的嗅覚という感じかもしれません)で、理論よりも行動を...
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5月 23, 2022
顧客機転がすべて「たった一人の分析から事業は成長する」
いま日本で最も人気のあるマーケターの一人、西口一希さんのノウハウが詰まったマーケティング本です。西口さんは、P&Gからキャリアをスタートさせた後、ロート製薬の役員に就任し、スキンケア商品の肌ラボを日本一の化粧水に。次は打って変わってベンチャー企業スマートニュースに参画し、大きな成果を残されました。大企業からベンチャーまで、第一線で活躍する中で確立した独自のマーケティング論を、展開されています。この本の特徴であり、非常に面白かったポイントは「N1」というアイデアです。大量のデータをもとに平均的な顧客を想像するのではなく、たった一人の顧客と向き合い分析することで、アイデアを得ることの大切さが書いてあります。どうしても顧客データ分析をすると、数字で理解しようとしてしまうのが、ビジネスパーソンではないでしょうか。本来一人ひとりのお客さまが存在しおり、それぞれ全く異なる人物であるはずなのに、そこに平均的な人物がいるような感覚で議論をしてしまうことがあります。実はそんな顧客はどこにもいなかったという危険性があるということですね。当社のビジネスはまだまだ小規模ということもあり、「一人ひとりのお客様...
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4月 4, 2022
社会起業の方法論「9割の社会問題はビジネスで解決できる」
著者の田口さんが2007年に創業したボーダレスジャパン。貧困、過疎化、人種差別、耕作放棄地、フードロス、地球温暖化などあらゆる社会問題を解決する事業を展開している会社で、ユニークな経営の仕組みや社会起業のノウハウについて書かれています。日本だけではなくて世界15ヵ国で40のビジネスを展開しているとのこと。本書を読む前は、日本から本当にソーシャルビジネスで世界展開できるのだろうか?と感じていましたが、仕組みが生まれた歴史や事業内容を理解するとなるほどと納得しました。ボーダレスジャパンの強みは圧倒的な当事者意識を生み出す仕組みとビジネススキルだと思います。これは、代表の田口さんが株式会社ミスミ出身ということが大きい気がします。株式会社ミスミは徹底的に経営マインドとスキルを社員に教え込むことで有名な企業です。HIDAIIYOのミッションである「ビジネスの力で地域を前へ」と考え方が似ていることもあり、共感できる部分も多く、たくさんの学びを得ることができました。僕たちもスモールビジネスをいくつも立ち上げてきましたが、本書に記載してあるノウハウが当てはまる経験がたくさんありました。ただ、ボーダレスジャパン...
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4月 3, 2022
日本型北欧社会「富山は日本のスウェーデン」
慶応大教授の井出さんによる富山研究本です。富山県が優れている点を歴史を紐解きながら解説する本で、富山県が豊かで住みやすい地域だと力説しています。持ち家率ナンバーワン、女性従業率ナンバーワン、三世代同居率全国5位、学力も高いなどと紹介し、舟橋村について転入超となっているホットスポットとして詳しく書かれています。飛騨地域は富山と地理的に近く、文化的・経済的交流もあるので、富山を身近に感じることができます。個人的にはライフスタイルの一部に富山が入っています。この本に書いてある豊かさは、飛騨に住みながら享受させてもらっている感覚があるので、肌感覚でわかる部分もありましたが、富山に行ったことがない方は一度行ってみてから読むと良いかも。タイトルが少しトリッキーで最後までしっくりこない部分はありましたが、井出さんの思想や主張を踏まえればなんとなくわかったという感じがしました。井出さんが横浜国立大学に勤務していた頃、僕の友人が複数ゼミ生だったので一度一緒に飲ませてもらったこともあります。教え子達も優秀で学者になっている人も多いです。まだまだメインストリームではないですが、少しずつ時代の流れは井出さん...
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3月 31, 2022
リノベーションまちづくり「熱海の軌跡」
衰退していた熱海をビジネスの力で再生に取り組んでいる市来さんのストーリー本。熱海生まれの著者はコンサルティング会社で働いていましたが、コンサルティングで人々を幸せにできているのかと疑問に持ち、大前研一さんが主宰するビジネススクールへ。Uターンして熱海の衰退をビジネスを通じて解決する道を探ります。地元の衰退をなんとかしたい、ビジネスの力で再生したいといった思いや、コワーキングスペース運営、創業支援などHIDAIIYOのストーリーやビジネスと似ている部分も多く、共感しながら読みました。地域再生系の本は実力以上に大きく見せようとするケースがよくあるのですが、市来さんの本は自然体。成功事例だけでなく、補助金に頼ったことによるイベントの失敗や、カフェの失敗についてもちゃんと書いていて好感が持てます。これはなぜかというと、おそらく、描いているビジョンが大きいからというのと、地域に根付いているからだと思います。ビジョンが小さいと自己中心的になってしまい、地域に根付いていない人物では周りが見えないので、自分ブランドのPRが先行してしまって知名度はあっても実態は、、、というケースがあったりします。リノベーション...
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3月 30, 2022
地方の生存戦略「地方消滅 創生戦略篇」
岩手県知事や総務大臣を務めた増田さん、株式会社経営共創基盤会長の冨山さんによる共著。政治と経営のプロが地方の消滅危機の実態とチャンスについて語っています。政治家の本は過去にいくつも読んできましたが、ふわっとした内容が多くなりがちです。しかしこの本は、富山さんという論客のおかげで、理論がしっかりとしていると感じました。GDPと雇用の7割を占めるローカル経済に、日本経済復活の可能性を見出している冨山さんの理論は筋が通っています。個人的には、富山さんのコメントが自社と照らし合わせながら読める部分も多く、特に地方発のイノベーションをどう生み出していくかという最終章が良かったです。一点欲をいえば、世界からの視点があると良いと思いました。インバウンドについて記載はありましたが、世界のローカルとの比較や事例についての言及があると満足度が高まった気がします。地域活性化に興味のある方におすすめできる本です。以下、印象に残った内容とコメント。地方の中核都市レベルに住む夫婦が共働きで500万円稼げる仕事をいかにつくるかが大切。新しいミドルクラスを作る。100-200万給与の仕事では駄目だが、観光業はそうなりがちなのが...
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3月 27, 2022
心とともに届ける「空き家幸福論」
空き家という社会問題を解決するビジネスを立ち上げた藤木さんの本です。藤木さんはデベロッパー出身で不動産ファンドなどで働いた後、不動産活用コンサルティング会社、エアリーフローを設立されました。2015年に空き家仲介サイト「家いちば」を立ち上げて、現在に至ります。本書では著者の人生を振り返りながら、現在進行形で成長し続けている「家いちば」事業について書かれています。藤木さんは空き家を問題として捉えるのではなく、そこに「心」や「ストーリー」という目に見えない付加価値を加えることで流通するようつなげ、社会問題を解決しています。HIDAIIYOが手掛けてきた空き家を再生した貸し切り宿ブランド「IORI STAY」とアプローチが似ているので、共感しながら楽しく読めました。「家いちば」のビジネスモデルがユニークな点は、買い手と売り手が直接交渉することです。最後の契約には宅建士が関与し安全を担保していますが、買い手が自ら疑問点を調べながら案件を進めるので、自主性が生まれるのが特徴。売り手であるオーナーも、自身の想いを本人の言葉で掲載するため、ストーリーが生まれ、感情のの交換が生まれているのも大きなポイントのようです。不...
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3月 27, 2022
日本は終わってる?「2040年 おいしいニッポン」
ロングセラー『投資家が「お金」より大切にしていること』の著者で「ひふみ投信」で知られるレオス・キャピタルワークスの代表藤野さんの本です。最近たくさんのメディアで見ることが増え、考え方や地方への想い(富山出身)に共感することが多いので、本書を買ってみました。本書に書いてあることは、僕なりに一言でいうと、「日本は課題先進国=チャンス先進国」です。2040年というと、それまでに南海トラフや富士山噴火などがほぼ確実に起こると言われ、人口減少・高齢化が進み、GDPの規模も縮小していくことが予想されていて、悲観一色という感じでしょうか。藤野さんはそんな世間の認識に対して、一石を投じています。さらば悲観論!と。個人的には本書の内容が地方の事例に多くのページを割いていることが嬉しかったです。藤野さんの着眼点が新しいこともあると思いますが、地方の先進事例が紹介されています。普段から意識して地方ビジネスの情報収集をしている人にとっては、たぶん物足りないと思いますが、地域内でもやもやしている人や都心で働いている人には目から鱗の内容も多いのではと感じました。また、大企業に行くことを否定することなく、「大企業でもい...